導入事例

まちが利益を生み出した――エリアマネジメントを事業にするAIA

AIAで代表理事を務める木下斉さん(中央)、理事の村瀬正尊さん(左)、インターンシップでAIAに参加している田代くるみさん(右)

まちが利益を生み出した――エリアマネジメントを事業にするAIA
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まちづくりと地域再生――。高校時代からこのテーマに10年以上取り組んできたのが、木下斉氏だ。その中で見えてきたのは「地域再生が補助金に頼りきりになっている」という課題だった。

2009年に木下氏が立ち上げた一般社団法人 エリア・イノベーション・アライアンス(AIA)では、マネジメント(経営)の視点を取り入れたまちづくりに注力している。地域が一丸となって独自に事業を立ち上げ、収益化する体制が築ければ、「補助金に寄りかかる」というまちづくりの課題を打破できると考えているからだ。

AIAは、全国で10以上の地域と連係した地域再生プロジェクトを手掛け、西へ、東へと奔走している。プロジェクトを成功に導く生命線は、「情報共有」にあると力を込める。それを担うのがサイボウズLiveだ。コラボレーションツールと自身の足を使い、全国のまちづくりに息吹を吹き込む木下氏。その活動と情報共有の在り方を取材した。

まちの人と一緒に、地域を再生する

AIAはまちづくり事業を全国で手掛ける一般社団法人で、これまで熊本や新宿な熊本や新宿などの地域再生にかかわってきたとお聞きしております。まずはAIAがどういった取り組みを手掛けてきたかを教えてください。

木下:AIAの取り組みを事例ベースでご紹介します。1つ目は、熊本市中心部のメンバーとともに立ち上げた熊本城東マネジメント株式会社です。ここではビルや店舗の不動産維持費用(ファシリティコスト)を削減し、それを原資にまちづくりを推進する「完全民間型」の事業モデルを開発しました。同モデルは現在、札幌や盛岡、熱海でも展開しています。

本事業の立ち上げ時に、熊本の市街地のビルや店舗オーナーにエレベーターの保守メンテナンス料金をヒアリングしたところ、先々代が交わした金額を払い続けている店舗が多かったのです。今のオーナーは当時の契約内容を把握しておらず、無駄なコストが掛かっている可能性がありました。詳しく調べると、コストや業務品質の管理が行き届いていないことが分かりました。

そこでAIAでは熊本城東マネジメント株式会社を中心に、熊本城東にあるビルの保守契約を一括でとりまとめることにしました。メンテナンスを委託する業者との契約見直しを55店舗から始め、最終的には173店舗に広げました。削減額は年間約430万円を上回り、このお金を地域の収益として、清掃活動を行うNPOの支援などに回すことにしました。

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熊本城東マネジメントの事例

また、新宿駅前通り商店街振興組合と手掛けたまちメディア事業の事例もあります。これは新宿 MOA4番街のオープンカフェ周辺に、デジタルサイネージ(電子看板)を設置する取り組みです。デジタルサイネージにはスポンサーの広告を放映し、新宿の地域はその広告収益を受け取ります。その収益を街路整備事業などのまちづくりに投資していく仕組みを作りました。MOA四番街という地域をイベントスペースとして、映画の宣伝に活用したこともあります。

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新宿MOA四番街にデジタルサイネージを設置し、広告で得た収益を、次のまちづくりに生かしている

これらがAIAの取り組みです。前者は「地域一体型のファシリティ管理」、後者は「ストリート・エリアマネジメント広告」という事業にあたります。店舗やオーナーとAIAがともに、地域全体で収益を上げ、それを次のまちづくりに投資する仕組みを作っています。

AIAではこういったさまざまな事業プログラムを開発しています。全国のまちづくり会社のノウハウを相互に流通させることで、事業の成功確率を増やし、事業開始までのリードタイムを圧縮することで、アライアンス効果を生み出しています。

公的財源に頼りきりでは、地域は再生しない

木下さんが手掛けた地域再生は、まちづくりに「マネジメント」を取り入れるという斬新な手法です。なぜその視点を持ち、地域再生に深く携わるようになったのでしょうか。

木下:わたしは高校1年だった1998年から、早稲田商店街のまちづくりに携わり、2000年には全国商店街の共同出資会社である株式会社商店街ネットワークを設立しました。4年ほど社長を経験するとともに、全国47都道府県の商店街をめぐり、さまざまなまちづくり団体にかかわる機会を得ました。その中で、あらゆる地域が「まちづくりは補助金でやるものだ」という固定概念を持っていることに、違和感を覚えるようになったのです。

これまでのまちづくり団体の多くは、地方の役所から得た補助金でまちづくりを手掛けており、「自分で地域再生に取り組む」というよりは、「補助金をもらうために計画書を書いている」ように映りました。団体は何をするにしても「資金がない、役所が助けてくれない」と他力本願でしたし、この事態を変えていくべきコンサルタントの多くも、補助金をもらう手助けをしているだけでした。わたしの目には、本質的なまちづくりの課題解決や自立的な活性化に寄与していないように映りました。

もちろん補助金のすべてを否定するつもりはありませんが、日本のまちづくりの多くが補助金に頼っている限り、資金の流れが途絶えれば、地域がさらに衰退してしまうという危機感を覚えました。一刻も早く、地域が自立的に活性化する方法を生み出す必要があると思ったのです。

こうした中、大学3年時から財団などの支援を得て、世界各国のまちづくりの調査研究に取り組み、日本にはないまちづくりの特徴が見えてきました。欧米を中心に地域課題の解決に取り組んでいる人たちが、まちづくりに「マネジメント」を取り入れていたのです、まちづくりを事業としてとらえ収益化するために、事業開発や経営の経験があるビジネスパーソンを招いていました。収益が継続的に上がれば、まちづくりに必要な次の施策に投資できます。このサイクルを回すことで、地域活性化を実現していたのです。

そこで、わたしは日本でも「経営とまちづくり」を中心とした取り組みを本格化することに決めました。

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企業は利益を再投資して事業拡大を図る。一方、まちづくりの多くは補助金によって営まれているため、「利益を生む事業」という観点が少ない

AIAとまちづくりのかかわり方はどのようなものでしょうか。

木下;AIAのモットーは「経営とまちづくり」であり、複数の地域や企業のアライアンス(協業)を作り、成果を最大化していくための団体です。そして、地域のまちづくり会社にただアドバイスをするだけでなく、ともに事業のリスクを共有して、課題を解決するようにしています。

つまり「いくらでやります。計画は立てますが、あとはみなさんの努力次第です」という従来のやり方ではなく、「事業にはこれだけの投資が必要であり、他地域でのノウハウや契約書なども提供します。そのかわり事業には継続的にかかわり、収益の一部をいただきます」という取り組みです。地元、アライアンス組織の方法にとって、事業拡大がメリットになる構造を作るという形です。

成果が出なければ意味がない、だからわれわれも本気で成果を生み出し、成長を共有することにしているのです。

具体的には、各地域のまちづくり会社の人とAIAのどの事業プログラムに取り組むかを決めます。まちづくりの会社がない場合は設立します。そして現地、AIAの各メンバーでプロジェクトを作り、工程を管理していきます。各地域での契約形態や課題解決のノウハウは文書(ドキュメント)にまとめ、ほかの地域でも活用できるようにプログラム化します。プログラムは先行地域での経験を生かしてブラッシュアップし、後発地域が成果を出しやすいようにしています。

まちづくり会社が国や自治体の補助金に頼らずに、自ら立ち上げた事業で地域を助け、事業単体で収益を上げるとともに、その資金で再投資していくサイクルの形成を実現していきます。それを「まちづくり事業の産業化」と呼んでいます。産業になってこそ、地域が本当に自立することになるのです。

"崩壊"したカレンダーの画面

木下さんは現在、10以上の地域で再生プロジェクトを手掛けていらっしゃるとお聞きしています。各プロジェクトにおける木下さんの主な役割を教えて下さい。

木下:AIAは、各地域のまちづくり事業の開発を推進するプロフェッショナルです。具体的にはまちづくり事業の設計から立ち上げ、関連するプロジェクトの管理をしています。

まちづくり事業を推進する主体は、地権者や店舗オーナーであり、AIA単独ではありません。地元の会社とタッグを組んで、まちづくりに取り組みます。彼らはみんなで仲良くやるのではなく、事業成果を生み出すことにリスクを負い、地域内での衝突を恐れずに、迅速な意思決定をする覚悟が求められます。

地域を再生する主体はあくまでもその地域の店舗オーナーや代表者の方であり、AIAではありません。彼らには、地域店舗や住民同士が手を取り合い、地域再生を進めるという覚悟が求められます。そういう意味では、わたしの仕事は彼らに発破をかけ、モチベーションを上げてもらうことなのかもしれません。

まちづくり分野は長らく、協議会などでの合意形成が重要だとされてきました。今でもこのような事業開発中心の考え方を理解してもらうのに苦労しますが、今は確実に受け入れられつつあると感じます。

地域の人のやる気を引き出し、プロジェクトを推進するのが木下さんの役割なのですね。プロジェクトは実際に、どう管理していらっしゃったのでしょうか。

木下:プロジェクトの情報共有は、メーリングリストが中心でした。送受信メールはGoogle Appsを利用しており、(件名ごとに)スレッド形式で閲覧していましたが、1日に受け取るメールは200件以上です。複数プロジェクトが並行する時は、メールの確認が漏れてしまうこともありました。また新規メンバーが入った場合に、メールでプロジェクトの経緯を共有するのは難しかったです。

予定管理はGoogleカレンダーを使っていたのですが、カレンダーを共有する設定にしたところ、自分のスケジュール上に他メンバーの予定が重なって表示されるようになりました。ほかの人の予定でカレンダーが埋まってしまい、その日の重要な予定が分からなくなるくらいに、カレンダーの画面が"崩壊"してしまったのです(笑)。

プロジェクトでは、議論の内容や進ちょくを常に確認しながら、必要な情報に返信や連絡をしていくことが大事です。しかし、受信ボックスから必要なメールを探すのは骨が折れますし、チームで予定をうまく共有できないと、プロジェクトが進みません。そこで「個人ではなくチームの予定管理ができ、プロジェクトの全体像を一目で把握できる」ツールが必要だと感じるようになりました。

「自分に必要な情報だけ、確認できるようになった」

そうした中、「サイボウズLive」をお使いいただくようになったのですね。そのきっかけは何だったのでしょうか?

木下:AIA アライアンス地域の岩手県盛岡市にある株式会社肴町365のメンバーにサイボウズLiveを教えてもらったことです。AIAではもともとWebのメールやファイル共有サービスを使っていたので、(Webコラボレーションツールの)サイボウズLiveも抵抗なく取り入れることができました。

現在は、地域再生プロジェクトごとに11のグループを作り、タスク管理やスケジュールの共有、見積もりの管理に使っています。タスクを「ToDo」や「予定表」といった複数の軸で確認できるので、どのプロジェクトの情報がどこにあるのかをつかみやすくなりました。新しい企画のアイデアを議論し、「いいね!」機能を使って評決をとることもあります。

サイボウズLiveでプロジェクトのスタイルは変わりましたか?

木下:「サイボウズLiveがあればプロジェクトが進む」――最近はこんな安心感を持つようになりました。

サイボウズLiveでは、自分の担当するプロジェクトにおいて返信が必要な情報のみをピックアップして、確認できます。例えば、20人が参加するメーリングリストのやりとりを1つの掲示板に集約できるので、更新通知に気づいた時に掲示板を確認し、必要なものだけにコメント(返信)することが可能です。メーリングリストだと、まず受信したメールを1つずつ開かなければいけませんし、開いたメールは、自分が返信をする必要のない内容も含まれています。

プロジェクトで一番大切なのは情報共有ではないでしょうか。われわれは提携している地域に毎日出向くことはできませんし、アライアンス地域の人々がともに会う機会もなかなかありません。だからこそ、インターネットを積極的に活用しなければいけません。

メールでの情報共有は、その情報を必要としている人が、必要な時にすぐに見つけられない点がネックです。すべてのメンバーに情報が等しく配信される必要はなくて、見たい時にすぐ確認できる仕組みが大切です。サイボウズLiveは掲示板に加え、ToDo管理やファイル共有など、プロジェクトの情報共有に適した機能をワンストップで活用できる点がいいですね。

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木下さんのサイボウズLiveホーム画面

木下さんはスムーズにサイボウズLiveを活用していただけたのですね。ではほかのメンバーにサイボウズLiveを使ってもらうために、何か工夫はしましたか?

木下:それが特にしていないんですよ。画面や操作性が分かりやすいこともあり、サイボウズLiveに招待したほとんどのメンバーは普通に使っています。60歳以上の方とも情報共有していますし。普段インターネットを使っている人なら、難なく使いこなせると思います。

一方で、インターネットをあまり使わない人には、サイボウズLiveへのログインが難しいと感じるようです。「メールアドレスとパスワードを入力してWebサービスを使う」という習慣があまりないからかもしれません。現に札幌や熊本の地域再生プロジェクトでは、サイボウズLiveとメールを併用していました。

メールなどのプッシュ通知の仕組みに慣れている人は、特定のサイトにずっとログインをした状態で仕事をするのに慣れていないでしょう。ただし、最近は多くの人がソーシャルメディアを活発に使うようになってきているので、この問題も徐々に解決されると思っています。

よりサイボウズLive活用していただくために、改善すべき点などがありましたら教えてください。

木下:1つの画面でプロジェクト進行を完結させたいので、APIで外部サービスをサイボウズLiveを連係して使えるようになればうれしいですね。また1つのファイルを複数グループの共有フォルダに一括アップデートできれば、いっそう便利になります。

まちづくり事業を1000億円産業に

最後に、AIAの展望をお聞かせください。

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木下:AIAの取り組みを通じて地域を活性化し、まちづくり産業の市場規模を拡大させたいです。今は1プロジェクトが数百万円、数千万円の規模ですが、それを数億円、数十億円と拡大していきたい。将来的には、地域再生の産業全体が1000億円規模の市場になってほしいです。

そのために重要なのは、事業収益を生み出すプログラムの開発、まちづくり会社が低コスト経営できる体制作り、迅速な意思決定ができる軽いガバナンスがあることです。そのためにインターネットの活用は重要であり、情報共有ツールを正しく使うことが不可欠です。

海外のまちづくり企業は、現場におけるマネジメント手法の開発、インターネット活用を徹底することで、大規模なまちづくりを進めています。その多くは、ある地域で成功した事業をほかの地域に転用しているのです。各地域の課題と解決策をインターネットで共有するようになれば、より短時間に、より低コストでほかの地域も再生できるはずです。それは、プロジェクト自体のスピードが早まることを意味します。

AIAでは行政などが数年掛かりで取り組むまちづくり事業を、数カ月で実現していきたい。そのための情報・ノウハウ共有の基盤をAIAが構築できれば、まちづくり産業全体の活性化につながっていくと信じています。

並行して、各地のまちづくり会社とも積極的にコラボレーションしていきたいです。地域再生の企画をお持ちでしたら、AIAにお問い合わせください。最近、大崎でまちづくり拠点「マチキチ」をオープンしました。顔を合わせながら、地域再生の新たな手法や可能性を検討していく場所にしています。主要ターミナルや駅とも近いので、気軽にいらっしゃってください。

まちづくり分野以外の企業とのアライアンス形成も進めていきます。これまでまちづくりに関係ないと思われていた、例えばサイボウズさんのような企業とコラボレーションすることで、まちづくり事業管理の生産性が飛躍的に改善したりするわけです。このアライアンスは非常に重要です。

アジア各国をはじめとする新興国でも、都市問題は発生しています。日本のまちづくり事業が世界でも貢献できるよう、今後は国内だけでなく海外にもアライアンスを広げていけるようにしたいと思っています。

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まちづくり拠点「マチキチ」

(2011/12/05)

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