導入事例

早稲田大学 向後千春先生

「サイボウズLiveはオンラインのゼミルームであり、僕の記憶装置」
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早稲田大学人間科学学術院の向後千春教授は、教育工学を専門分野に持ち、インストラクショナルデザイン(教え方のデザイン)の研究に取り組んでいる。学生、社会人が参加するゼミに加え、e-ラーニングによる教育を10年弱にわたり続けるなど、「教えること」の探求に努めている。

ゼミの情報共有には、無料コラボレーションツール「サイボウズLive」を活用。オンライン・オフラインを問わず、学生と研究を進めている。大学では独自の情報共有システムが提供されていたが、向後先生はゼミで積極的にサイボウズLiveを活用した。「サイボウズLiveはオンラインのゼミルームであり、僕の記憶装置です」と向後先生は笑う。

大学という教育機関の情報共有において、サイボウズLiveはどう価値を発揮するのか。向後先生に話を聞いた。

教えることの本質を探求する向後千春ゼミ

向後先生のゼミではどのような研究が進められているのでしょうか。

早稲田大学人間科学学術院・向後千春研究室(KogoLab)で、教育工学を研究しています。研究分野は「インストラクショナルデザイン(教え方のデザイン)」で、ネットワークやPC、モバイルなどのコンピューターを使って教えることをどう効率的・効果的にするかを研究しています。企業や病院、塾、教育機関といった組織教育が対象です。

会社では仕事を、学校では勉強を、家庭では子どもに物事を教えますよね。われわれの生活と教えることは密接に関係しています。しかし教え方そのものを学校で習う機会はほとんどありません。社会人になって教える立場になった時、「自分がうまく教えられない」という経験をしたことがある人も多いと思います。そういった人の多くは、過去の学びや経験、他者の教え方を見よう見まねで伝達してしまうことが多くあります。

また教育の専門機関である学校でも、「教えること」を扱うのは難しいといえます。例えば大学では、大勢の学生に一定の知識を効率良く教えることは可能ですが、一人ひとりの学生の問題意識や知識量にあわせて個別に教えるのは不向きです。

KogoLabでは、「教えることの本質」を探求しています。どう教えると成果が出るか、苦労せずに学びが得られるかを研究するとともに、より効率的な教育ができる理論や教材を開発しています。

より効率的に教えることができれば、組織やチームの成果がより明確に現れるということですね。向後先生がおっしゃっていた「教えることの本質」とはズバリ何なのでしょうか?

教えることの本質は、(1)運動技能、(2)認知技能、(3)態度技能――の3つの教え方を習得することです。「運動技能」は訓練による身体の学習、「認知技能」は作文やプレゼンテーションといった力、「態度技能」は行動するための動機づけや決心する能力です。少しかみくだいて説明しましょう。

(1)の運動技能は、スモールステップで1つずつできることを増やしていくことです。いきなり難しいことに取り組むのではなく、階段を一段づつ上るようにスキルを身につけることを勧めています。(2)の認知技能は「転移能力」で、知識をただ覚えるのでなく、知識を応用して課題の解決をアウトプットするような能力を指します。(3)態度技能は、行動を促すために相手の能力を引き出すことで、例えば命令ではなく質問をしながら相手のモチベーションを高めるといったものです。

運動、認知、態度という3つの視点を取り入れることが、教える本質だと思っています。ゼミ生はこの視点を実生活に取り入れており、サッカーコーチの学生による選手のコーチングや、医療に従事する社会人学生による後輩の指導に役立てています。ゼミでは本を読んで理論を学ぶだけでなく、シミュレーションやロールプレイングを通じて、教える実践を積んでいきます。

教えることを理論・実践の両面から学べるのが向後ゼミの特長ですね。参加者はどのような人が多いのでしょうか。

私のゼミでは、大学生・社会人の両方が学んでいます。また人間科学部では2003年に、e-ラーニングを通じて学びの場を提供する「eスクール」を立ち上げました。eスクールには毎年30~50代を中心に学生150人以上が集まります。私はゼミ、eスクールの両方で講義を担当しています。

学生、社会人を問わず、教える立場になった時に「うまく教えられない」と感じた経験のある人は多いと思います。実際に「教えること」が仕事になった時、失敗してはいけないという恐怖心も出てくるでしょう。それは「教え方」を体系的に学ぶ機会がこれまでになかったからです。

学びは仕事や生活をより豊かにします。学ぶことで、今まで以上にクリエイティブな仕事・生活ができます。より豊かな生活や仕事を求める人が増える中、社会に出た後も大学に戻り、古典から最新の理論までを学ぶ機会が多くてもいいと思っています。向後ゼミでは「面白く学んでもらう」ことをモットーに、学生・社会人に対して、オンライン・オフラインの両面で学びの門戸を開いています。

オンラインの掲示板で、40人以上のゼミ生の研究活動を把握

向後ゼミでは、学生同士のゼミ情報や研究の進ちょく共有に、無料コラボレーションツール「サイボウズLive」を使っている。研究室に所属する早稲田大学ライティングセンター助手の冨永敦子さん、ゼミ生の関和子さんを交えて、大学や教育機関でのサイボウズLiveの活用について聞いた。

サイボウズLiveを使い始めたきっかけは?

向後:もともと早稲田大学では「コースナビ」というラーニングマネジメントシステムがあります。掲示板やディスカッション、試験の採点ができる大学内のITツールで、約5万人が使っています。多機能ですが、画面遷移の煩雑さやセキュリティの観点からログインを長時間保持できないなど、幾つかの課題を感じていました。また、普段の連絡にはメーリングリストを使っていました。

サイボウズLiveを導入したのは、2010年7月です。実際に使ってみると、シンプルな画面で画面の切り替えが少なく、動作も軽快でした。ログインするとゼミや研究活動のあらゆる新着情報がホーム画面に表示されますので、少ないクリック数で簡単に情報を確認できました。私は即座に連絡や返信をするタイプなので、ストレスなく使える点に利便性を感じました。

ラーニングマネジメントシステムより簡単に、ゼミや研究活動の情報を共有できるようになりました。現在向後ゼミでは大学生3年、4年生で2グループ、修士・博士課程の学生で1グループ、eスクール生の1グループ、合計4グループを作り、合計40人強で使っています。

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向後先生のサイボウズLiveトップページ。2012年のゼミのグループが並んでおり、それ以前のグループは別フォルダに分けている

特にお使いいただいている機能はありますでしょうか。

冨永:「掲示板」の頻度が最も多いですね。タイトルに学生の名前を入れて(例:●●の研究)、論文や研究内容の進ちょくを共有しています。

掲示板の本文欄には「研究テーマ」「スケジュール」「日々の研究の成果」を記載しています。本文欄を見ると、研究の進み具合が一目で分かります。時間が空いたティーチングアシスタントや学生が互いに掲示板をチェックし、成果物を確認し合います。

関:数十人へのインタビューを要する研究プロジェクトを進めていた時のことです。このプロジェクトでは、インタビューを完了させることが必須であり、インタビューには取材のアポイントから実際の取材、インタビュー内容のテープ起こしなど、さまざまなプロセスがあります。

そこでインタビュイーごとに掲示板を作りました。各担当者が取材タスクを掲示板の本文欄に書き込み、取材の詳細をコメント欄で共有します。業務完了後に本文欄のステータスを書き換えていくことで、メンバー全員がプロジェクトの進ちょくの全体像を把握できたのです。

タスク量の過不足なく、メンバー全員が平等にインタビューを担当できたのは、掲示板を有効活用できたことが大きいです。サイボウズLiveは、常に掲示板の本文欄を新しく書き換えられますので、進ちょく管理が必要なプロジェクト用途でも使いやすいと感じています。

向後ゼミでは外部イベントや研究会への参加も多く、日時の調整や出欠確認に「アンケート」機能も活用しています。資料や論文の保管は「共有フォルダ」を使っていますね。

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グループ「大学院ゼミ(2012)」の画面。主に掲示板を活用し、向後先生とゼミ生のやりとりがメンバー全員に共有される

ルール作りで利用が活性化、ゼミの連帯感に高まり

当初からゼミ生で活発にサイボウズLiveを使っていらっしゃったのでしょうか。メンバー全員で運用を活性化させるコツがあれば教えて下さい。

冨永:ルール作りが大切だと思います。向後ゼミではサイボウズLiveを導入した時点で、まず先生がゼミ生の掲示板を個別に立て、そこで研究の成果を共有する仕組みを作りました。

関:新しいツールを使うことになった場合も、一定のルールがあればどう使っていくべきかが分かり、抵抗なく活用できると思います。そうして使い続けるうちに、新しい運用ルールが自然とできてきますし。

具体的なルールの1つとして、用途に応じて掲示板のタイトルに「★」「●」「■」「▼」という記号を付けています。使い分けは以下の通りです。

★:研究会やイベントの案内
●:学生の研究活動
■:個別のディスカッションが必要な議題
▼:開催されるゼミの案内

グループによっては30以上の掲示板を立てていますが。タイトルに記号を付けることで、トピックの内容が目で直感的に判断でき、確認や書き込みがしたい掲示板をスムーズに探し出せます。向後ゼミ以外の知人ともサイボウズLiveを使い始めたのですが、これらのルールを参考にして運用を始めています。

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掲示板は用途ごとに「■」「★」「●」などの記号を付け、視覚的に分かりやすいタイトルを付けている。運用の工夫として参考になる

サイボウズLiveを使うことで、ゼミ活動にどのようなメリットがもたらされましたか?

冨永:ゼミ全体の進ちょくがオープンに共有されているため、ゼミ生が今何をしているのか、研究がどれくらい進んでいるのかが分かり、刺激になります。

写真投稿もいいですね。外部研究会の様子やゼミで使用したホワイトボードを撮影し、掲示板で共有することで、当日参加できなかったゼミ生ともその場の雰囲気を共有できます。ゼミ全体の連帯感も高まったのではないでしょうか。

向後:ゼミの最終目的は、論文などの研究成果を出すことです。論文は完成までに何度もブラッシュアップするため、指導側、学生側のやりとりの効率化が必要です。

サイボウズLiveでは、すべての学生に対する指導内容がオープンになっているため、学生には各自の研究にそのノウハウを取り入れて学んでほしいと思っています。

冨永:学生同士のコメントから学びを得ることは多いですね。また、言いたいことを正確に伝える書き込みをする必要があるため、自然と文章力もついてきます。

たまに先生の指導に熱が入り、掲示板に赤色で大きな文字の書き込みがあったときはヒヤリとします。このやりとりも全員に共有されますので、オープンな情報共有の副作用かもしれませんね(笑)。

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向後研究室におけるサイボウズLive導入前の課題と、導入後の効果

その他、サイボウズLiveの活用シーンはありますでしょうか?

向後:iPhoneアプリ「サイボウズLive for iPhone」もよく使っています。研究会の出張も多いのですが、出先でiPhoneから最新情報を読み込んでいます。

サイボウズLiveを見れば、集約されたゼミの全情報があり、どのトピックを確認すべきかがすぐに分かります。サイボウズLiveはオンラインのゼミルームであり、僕の記憶装置ですね(笑)。

社会に出た後も学びが得られる場を作る

ありがとうございました。最後に向後先生の活動における今後の展望を教えて下さい。

向後:eスクールの開設から10年が経とうとしていますが、当初は10年後にe-ラーニングやインターネットを活用した教育の仕組みができると思っていました。欧米では既に一般的ですが、日本ではまだまだこれからというところでしょう。

今はYouTubeやSlideshareのようなインターネットサービスを使えば、より多くの人が(組織や職場以外の場所でも)「教える」機会を得て、より簡単に教えることを経験できます。フリー(無料)なインターネットの世界では、知識を囲い込むのではなく、オープンに共有することが当然となっています。大学という場所においても、知を囲い込むのではなく、知をより開放できる場所にできればと思います。

社会に出てから、もう一度大学で学ぶ機会が得られる社会になることも願っています。そういう意味では、私の専門である「ITを使った大人の教育」という視点で、面白く学びが得られる機会を作っていきたいです。

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早稲田大学大学院の向後千春先生(写真中央)と研究室の所属する早稲田大学ライティングセンター助手の冨永敦子さん(右)、ゼミ生の関和子さん(左)
2012年3月14日
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